その少女は街から来たと言った。
「どこの街だ。新宿か、渋谷か」と質問すると、「唐木田だ」という。
誰もそんな街は知らない。
すぐに少女の【カラキダ】は【空騒ぎだ】と言われるようになった。
彼らは少女をいつもからかって遊んだ。
少女は彼らにどう反撃するかを考えた。
どう考えても唐木田で新宿には勝てない。そこで、嘘八百で反論した。
「新宿? 渋谷? スケールが小さいわ。唐木田はね。海の向こう、唐の国にあるのよ。大陸らしく木のように巨大な稲が生育する田んぼがあるの」
周囲のみんなはそれを本気にして感心した。少女はホッとした。
「すげえな。唐の国って、唐揚げの本場だろ? 今度唐揚げ作ってくれよ」
少女はずっこけた。
(遠野秋彦・作 ©2017 TOHNO, Akihiko)